奥様会ランチ
2025年07月06日 17:10
大奥のような午後
主人の勤める会社では、年に数回、重役夫人たちが集う「奥様会」がある。
今日のランチ会は、都心の高級ホテルにある個室レストラン。
しつらえは和モダン。けれど、障子の奥からひそひそと聞こえてきそうな噂話の気配は、まるで現代の“大奥”。
私は最年少の部類。けれど、年齢に甘えは許されない。
着物は控えめな江戸小紋。髪は夜会巻き。
ひとつ笑うにも、声の高さとタイミングが問われる。
「◯◯商事の奥様、こないだのお能の会、素敵でしたわよ」
「まあ、うれしい。今度ぜひご一緒に」
微笑の裏には牽制も探りも潜んでいて、食事の席は戦場。
けれど、私は嫌いじゃない。
女性たちの知性と品、そして女同士にしかわからない優美な駆け引きが、なぜか心地よく思える。
食後のほうじ茶の香りが立つ頃、ふと隣の席の奥様が私に耳打ちした。
「あなた、あの方のお気に入りだとか…うふふ」
頬がわずかに紅潮したのは、暑さのせいか、それとも――
品よく笑い返す私は、すでに“大奥”の空気に染まり始めていた。
でも私の女の仮面を誰も知らない。私が色々な男性に抱かれているなんて、想像も出来ないはず。