女としての証
2025年07月13日 09:31
静まり返った朝のリビング。窓から差し込むやわらかな光が、織の入った白いカーテンを透かして床に模様を描いていた。
夫は今朝、海外出張へと旅立ったばかり。空港へ送った帰り道、少しの寂しさと、それ以上に説明のつかない感覚が胸に残っていた。
鏡の前で髪を整えながら、ふと自分の頬に指を当てる。50を過ぎた今でも、女としての自分を捨てきれない。むしろ――歳月が与えてくれた経験と奥行きが、自分をより深く、濃くしたのかもしれない。
昨夜、夫の背にそっと腕を回したとき、彼は優しく微笑んだだけで、私の手をそっとほどいた。
「気をつけてね」と見送ったその言葉の裏に、疼くような虚しさが忍び込んでいた。
女であることを忘れたくない。誰かに触れられることで、自分がまだ“生きている”と感じたい。
――そんな思いが、今朝はやけに胸に迫る。
静寂のなかで、自分の呼吸だけが聞こえる。
この疼きは、恥じるものではない。
むしろ、女としての証――そう思えた。