夏の匂いと揺れる心
2025年07月31日 12:19

風鈴がひとつ、控えめに音を立てた。
はづきは、薄手のリネンのワンピースに袖を通し、ベランダに出た。陽射しは強いが、夕暮れ前の空気にはどこか切なさが混じっている。
洗濯物の間をすり抜ける風に、夏の匂いが混じる。子どもの頃に嗅いだ、蝉の声と畳の匂い、祖母の扇風機の音。そんな記憶が、ふいに胸の奥を刺激する。
だが、今、彼女の心を満たすのは――
あの人の声。
「はづきさん、今日は、会えますか?」
数日前、LINEに届いた短いメッセージ。既読にしてから返事はしていない。それでも、何度も開いては閉じる。それだけで、胸が高鳴る。
夫とは、いわば穏やかな海のような関係。波は立たないけれど、心がざわめくこともない。
でも彼とのやりとりは、真夏の夕立のよう。激しくて、予測できなくて――危うくて。
「私は、なぜ惹かれてしまうんだろう」
はづきは、静かに目を閉じた。扇風機の音が、切なさをさらに増幅させる。
胸の奥で疼くもの。それが、欲望なのか、寂しさなのか、自分でもわからない。
でも身体は、反応してしまっている。
ア⚫︎コが濡れ濡れでぐちょぐちょになっていた。
ただ確かなのは――
この夏は、これまでとは少し違う何かを、連れてくる予感がしていた。


