はづきの朝
2025年09月19日 06:45
朝――
薄く開けたカーテンの向こうで世界がゆっくり目を覚ます。だが、はづきの胸の中はまだ夜の余韻に占領されている。静けさの中で、寂しさがじわりと広がり、心細さが指先まで届くようだ。
彼がいない家は広くて、音も匂いもいつもより遠い。湯気の立つコーヒーをひと口飲んでも、温もりはカップの中にだけにある。手のひらに残る彼の体温を探してしまう自分に、少しだけ苦笑いする。
抱きしめてほしい。声に出せば届きそうな、でも誰にも言えない願いがはづきの胸を締めつける。心のどこかで分かっている。今、何より欲しいのは、激しい行為ではなく、ただ誰かの腕の中で安心したいということだ。
ベッドに戻り、枕を抱きしめる。布団の匂い、枕の形、そこに重ねる自分の呼吸が唯一の慰めになる。ぬくもりを模した腕に包まれると、わずかに肩の力が抜けるのを感じた。
窓の外で小さな鳥が鳴き、時間は淡々と流れていく。けれど、その中で確かに小さな希望が生まれる。誰かと寄り添うことを想像するだけで、胸の奥の冷たさがふっと和らぐ。
はづきはゆっくりと目を閉じ、今日一日の小さな儀式を始める。丁寧に髪を整え、鏡に向かって軽く微笑む。寂しさは消えないけれど、自分で自分を抱きしめることもできると、どこかで確信しているのだった。