はづきの頭の中
2026年02月15日 08:28

主人は一年の半分以上を海外で過ごす。
静まり返った家に残るのは、私と、十四歳になるマルチーズのMOMOちゃんだけ。
小さな足音と、柔らかな体温がそばにあるだけで、
この家はどうにか“生活”を保っている。
子供はいない。
最初は少し寂しかったけれど、
いつの頃からか私は、その空白を“自由”と呼ぶようになった。
昼はエステの仕事。
肌に触れるたび、呼吸が緩み、
人はこんなにも簡単に心を預けてしまうのだと、
何度も実感する。
夜は天然石の事業。
石を手に取ると、不思議と身体の奥がざわめく。
「欲しい」と願う気持ちには、
美しさも、いやらしさも、どちらも宿るのだと知っている。
そして週に三日だけ――
私は“別の顔”を持つ。
趣味と実益。
そう言い聞かせて始めたデリヘリの仕事は、
気づけば、私の“女”を確かに目覚めさせていた。
誰かに見つめられること。
求められること。
名前を呼ばれること。
そのたびに、
頭の中は静かに、でも確実に熱を帯びていく。
はづきは、いつも考えている。
言葉の間。
沈黙の距離。
指先が触れる“その前”の空気。
何も起きていないはずなのに、
想像だけで、胸の奥がきゅっと締めつけられる。
それが、私の性(さが)なのだと思う。
MOMOちゃんを膝に乗せ、
夜のソファでひとりで紅茶を飲む。
主人のいない時間。
誰にも見られていない、私だけの世界。
その中で、
私は今日も、
頭の中だけで、
何度も、何度も――
“女”になっている。


