妄想日記(キャビンアテンダント編)
2026年02月21日 09:26

国際線ファーストクラス専属のキャビンアテンダント。
主人は海外赴任中。
空を飛ぶたびに、私たちはすれ違う。
地上での生活と、雲の上の時間。
どちらも私の現実。
今日のフライトは長距離便。
落ち着いた照明、上質なシャンパンの香り、
静かに流れるクラシック。
ファーストクラスは、
特別な空間だ。
言葉遣いも、所作も、
すべてが洗練されている。
その中に、
ひときわ印象的な紳士がいた。
グレーのスーツ。
控えめな時計。
余裕のある微笑み。
「ありがとう」
そう言われただけなのに、
なぜか胸の奥がわずかに揺れた。
私はプロだ。
視線の交わし方、距離の取り方、
すべて心得ている。
それでも、
ドリンクをお持ちしたとき、
彼の指先がグラス越しにほんの一瞬、触れた。
ただ、それだけ。
それなのに、
機内の温度が一度上がったように感じたのは、
きっと私の錯覚。
深夜、客室が静まり返った頃、
彼が小さく手を挙げた。
「少しだけ、話し相手になってくれますか」
規則の範囲内。
問題はない。
それなのに、
なぜこんなにも鼓動が早いのだろう。
雲の上という非日常は、
人の心を少しだけ大胆にする。
主人がいる。
分かっている。
けれど、
何も起きていないのに、
何かが始まりそうなこの空気。
それがいちばん、危うい。
私は笑顔で言った。
「お飲み物は、いかがなさいますか?」
その一言に、
どれだけの感情を隠したかは、
きっと誰にも分からない。












