朝の微熱
2025年07月18日 09:58
窓から差し込む朝の光が、純子の頬を静かに照らしていた。
五十代も過ぎ、夫は長期の海外赴任。
独りの朝に慣れてしまったはずの身体が、ふとした瞬間に微かに疼くことがある。
シーツに指を滑らせたとき、かすかに思い出したのは、
昨夜夢に見た、誰とも知らぬ男の腕。
柔らかく、でも逃れられないように自分を抱いた、あの感触──
夢だとわかっているのに、胸の奥にまだ余韻が残っている。
「…私は、女なんだ」
小さくつぶやいたその声が、
思いのほか艶を帯びていることに気づき、
純子は一人、苦笑した。
この胸に秘めた欲望は、
決して誰にも知られることはない。
けれど、確かに、今も自分の中で
しんと、微熱のように息づいているのだった。