はづきの恋(妄想日記)
2025年07月26日 08:47
50歳になっても、恋という言葉が胸の奥を震わせるなんて──
はづきはそんな自分を、どこか可笑しく思いながらも否定できなかった。
夫は相変わらず海外出張続き。家は広すぎて、夜になると寂しさが響いてくる。
そんなある日、大学時代の同級生・篤志(あつし)と偶然、再会した。
彼も離婚を経て、今はひとりだという。
変わらぬ優しさに触れるたび、はづきの胸の奥が疼いた。
夜のカフェ、誰もいないテラス席。
ワインを飲みながら、はづきはぽつりとこぼした。
「……ねぇ、抱きしめて欲しいって思うの、いけないことかしら」
篤志は黙ってグラスを置き、そっと腕を伸ばした。
はづきの肩を包むように、優しく、確かに。
胸に顔をうずめながら、彼女は静かに目を閉じた。
若さではない、身体のぬくもりだけでもない。
ただ、心が欲しかった。
誰かに触れていたい、そんな願いを、言葉ではなく抱擁で伝えてくれた彼に──
はづきは、初めて”恋”という名のため息を、夜空にそっと吐いた。