良き妻
2025年09月22日 18:58
夜――
台所に立ち、包丁で野菜を刻む音が響く。
炊き立てのご飯の湯気、味噌汁の香り。
食卓の上には、主人の好物を並べていく。
「おかえりなさいませ」
そう言って迎える準備を整える自分は、誰が見ても“良き妻”。
笑顔も、声の調子も、すべては長年染みついた習慣。
まるで仮面のように自然に顔へと張り付いている。
けれど――その内側では、違う女が目を覚ましていた。
明日は、秘密のバイト。
そこでだけ仮面を脱ぎ捨て、欲望のままに乱れる。
震えるほどの刺激と、忘れていた女の悦びに溺れる。
良き妻の顔で晩ご飯を並べながら、
心の奥ではすでに、明日を待ちわびていた。
――今夜は静かに、良き妻の役を演じる。
でも明日は、秘密を知る女に戻るのだ。